町外れの古びた喫茶店。木製の扉を押し開けると、少しひんやりとした空気とともに、コーヒーの香りがふわりと漂った。静かな店内には、時の流れがゆっくりと染み込んでいるようだった。
雨が静かに窓を打ちつけ、外の世界をしっとりと濡らしている。店内は木の温もりが心地よく、どこか懐かしい落ち着いた雰囲気だ。白髪白髭のマスターは、そっとカウンター越しに微笑んでいる。
「マスター、いつもの。」
その日、帰るに帰れない僕は雨宿りのつもりでやってきた。湿ったコートを脱ぎながら、ポツリとため息のように注文する。
白髪のマスターは言葉なく、ゆっくりと一杯のコーヒーを差し出した。湯気と共に立ち上る深い香りが静かに漂い、カップの琥珀色の液面には店内の柔らかな光が反射していた。マスターの穏やかな眼差しが、高校生の心にそっと寄り添うようだった。
「実はさ、二匹とも死んじゃって……なんだか、うまく気持ちを整理できないんだ」
マスターは静かに頷き、優しい声でなぐさめる。
「そうか、残念だ。」
リクガメのカフカは、ゆっくりとした足取りで僕のそばに近寄ってきた。つぶらな瞳をじっと僕の顔に向け、まるで何かを察して慰めてくれるかのように、甲羅を少しだけ僕の手に寄せた。
マスターは静かに僕の目を見つめながら、優しい声で問いかけた。
「君にとって、生き物の『いのち』とはどんなものだろうか?目に見える命もあれば、感じるだけの命もある。だけど、その価値をどうやって測ればいいのか、考えたことはあるかい?」
その柔らかな問いかけに、店内の時間が一瞬ゆっくりと流れるように感じられた。