補話1 動く小石

マスターの話を聞きたいと言い出したものの、元教授の講義がいささか難しく、僕は自分なりにマスターの考えをまとめてみる。

『およそ生命という存在は平等で等価値』【客観的生命等価値論】 であると同時に『もっぱら個人の主観的価値判断』によって最終的な価値が定義づけられる【主観的価値判断】。そしてその価値は主観的価値判断によって揺らぎうる【主観的価値判断の流動性】と言っていた。

僕なりの解釈としては「生命は外から見ればみんな一緒であって、ある生命をどれだけ大事にするかは人によって違う」と今のところ理解しておけばいいのかな。【主観的価値判断の流動性】についてはまたマスターが詳しく教えてくれることだろう。

マスターのいう『ショーケース』についてこれから話が始まりそうだ。

リクガメのカフカは、つぶらな目でのんびりと僕を見上げる。
まるい甲羅をわずかにひねり、てくてくゆっくりした足取りで近寄ってくる姿は、まるで小さな石のように愛らしい。
口元をもぞもぞと動かしながら餌をねだる様子は、無邪気で素朴な仕草に満ちていて、その存在だけで店内に穏やかな空気が広がる。
カフカのゆったりした動きと静かな好奇心は、不思議と見る者の心をほっとさせてくれるのだった。